世界の郵便ポスト―196ヵ国の平和への懸け橋
この本はすごい。
普通のおじさん(やってることは普通じゃないんだけど)が、郵便への愛、特にポストへの愛が強すぎて、196ヶ国を自分の足で訪れ、ポストを撮影することだけに費やした記録なのだ。
まず日本が国家として認めている国はアフガニスタン以外全て行っている。
一生聞くことがなかったんじゃないかと思うような、小さい島々にも行っている。
しかも個人で貧乏旅行したのではなく、団体ツアーで行ってその合間に撮影をしたり、個人で行く場合はガイドを雇って、観光地そっちのけで郵便局だけに案内してもらうというお金のかけ方。
この情熱はどこから来るのか、一生に一度でもそういうものに出会える幸せをこの本から感じた。
最初に何気なく手にとって読んで見たときは、写真もうまくないし、文章も少ししか書いていない、しかもポスト愛の強い主観でしか物事を捉えていないので、「この国はポストの種類や形が少ないのでがっかりした」とかあくまでもポスト目線でのみ書いていて、一種の居心地の悪さを感じたが、読み進めていくにつれ、
「こんなところにも行ったのか」という感動とポスト愛への感動がじわじわとやってきた。
あとがきには、訪れた国で戦争や災害が起きると、あのポストは大丈夫だろうかと心配になると書かれていた。そこまでの愛が持てるものがあるだろうか。
そして196ヶ国を約30年かけて訪れたそうだが、やはり戦争、内戦や災害で今は行けなくなったところがたくさんあり、ちょうどいいタイミングで訪れられたところもあるそうだ。世界が平和であれば、どの国にも行けるはずなのに。今後も訪れる国が減らないことを願う気持ちも本物だと感じた。
<まとめ>
・見た目に騙されるな、かなり狂気に満ちた本
・ポスト好きじゃなくても楽しめる
・旅行記とかとはまた違うある種研究成果の発表レポートのような感じ
一号線を北上せよ
『深夜特急』の沢木耕太郎が、あれからもっと時が経ってから、あの時の旅を時折振り返りながら、いろんな国を訪問する。
読んでいると、その国の空気感が分かる(もちろん行ったことがあるからというのもあるが)描写ができるのは本当にすごいと思う。
ベトナムの雨上がりのジメジメとした感じや、ポルトガルの海沿いの雰囲気。
意外だったのはあまり下調べをしないでその国に行くということだ。
今の時代でもそうやって旅するのだろうか。
再び当時の自分を思い出しながら旅するのはとても楽しそうだ、いつかやってみたいと思う。
本について細かいことは言わない。やっぱり沢木耕太郎は沢木耕太郎なのである。
<まとめ>
・沢木耕太郎が好きなら読むべし
・言葉の選び方が素敵なので、その国の旅する人の気持ちはとても伝わる
わたくしが旅から学んだこと
2019年1月に亡くなった兼高かおるさんの著書。
スーツケースのティータイムという本は、兼高さんの世界で体験したいろいろなことや考えがインタビュー形式でまとめられた本だったが、本著は自ら今までを振り返って書かれた本。かなり晩年になってから書いたようだ。
自分が見てきたものがリアルだから、ある程度自分に自信があり、それでいて優しい口調で、世界のことのみならず、今後どのように生きていくべきかなど、語られている。
これほどにも押し付けがましくない励ましはあるのだろうかと思うくらい、読んでいて一切の嫌味がなく、それでいて次の日からの英気を養えるような本であった。
内容はすごくシンプルで30分くらいで読めてしまうくらい字が少ない。
個人的にこの方の文章や考え方が好きで、いろんな本が絶版になってしまっているのはとても残念。でも本著はまだ新しく文庫版でも出ているので、いつか購入しようと思う。
みんなの旅ごはん日記 異国の、忘れられない一皿
旅ブロガーとして有名な方々の記事の中から、食に関するレポートを抜粋してまとめた一冊。
アジア、中東、オセアニア、北米・中南米、ヨーロッパ、アフリカと全世界に渡って、高級レストランから路上の屋台まで満遍なくという感じ。
食べ物の写真を見ているだけでテンションが上がる人にとっては、とても良い本だと思う。
大体の旅行時期が2013-2014年にかけての話なので、少し物価や情勢などが変わっているかもしれないことを考慮して参考にした方がよさそう。
旅をした者からすれば、いやいやここではこれの方がうまいだろ、とか、これは食べたことがなかったな、とか。いろんな思い出とともに旅の思い出が溢れてくるので、本を閉じたくもなった。
旅の初期は美味しい店を探すのが下手だ。それに加えて貧乏旅だと自炊が多くなり、現地の美味しいものって何だろう、と思い出にすらならなかったりする。
本書の中で誰かが触れていたが、一カ国につき一回は現地の名物を外食した方がいいと。私はそれには同意する。日本で食べようとしても、やっぱり味付けが異なる、水も違えば調味料も違うし、別の本で書いてあったことだが、人の指についている脂、というのも料理の味を左右するらしい。
とにかく自炊にこだわらずに、美味しい店を見つける直感を養うことも一つ旅のスキルの一つだと思う。
この本は文章を読まなくても楽しめる。人によっては文章が全く面白くないし。アームチェアトラベラー(ガイドブックや時刻表などを家で見ながら旅行気分を楽しむ人のことらしい)の想像をより具体的にする本だ。
<まとめ>
・食べることが好きな人、アームチェアトラベラーにおすすめ
・写真だけでお腹いっぱい
空飛ぶ野菜ソムリエ 世界の旅ごはん
2018年5月に発行された割と新しい旅グルメ本
食のスペシャリストである著者の各国美味しかったものや、それに出会うまでの道のり、その都市の市場の様子など、食をテーマとして書かれた本である。
その国への行き方や予算感などは詳細の記載がないため、そういう目的では読むことはできない。
各国で食べる料理は、高級なものはほとんどなく、その国で当たり前に食べられている食べ物についてが多く、一般の人が海外旅行に行って食べてみたいなと思えそうなものばかりなのが良かった。ただただ高いものを食べまくる紀行なら(それはそれで面白いと思うが)、読んでいても「まぁお金がある人だから」と思われるのが関の山である。
ただ一つ不満があったのは、タイトルに野菜ソムリエと題した割には、野菜ソムリエとしての発言がいまいちなかったこと。変わった野菜などについてはちょこちょこと記述があるが、果たしてソムリエを名乗る者として、こんなにも普通の食日記でいいのかと思ってしまったのであった。
自分が旅をしたのは5年も前になる国もいくつかあり、短い時間でも少し変わったんだなと思うようなところもあった。そういう意味でも個人的には興味深かった。
各国の名物料理のレシピが載っていたり、写真も豊富で気軽に読める。
<まとめ>
・あくまでも食を知るための本
・野菜ソムリエに惹かれて読むなら物足りない
・写真も綺麗で気軽に読める
スーツケースのティータイム
残念ながら2019年1月5日に亡くなった旅行ジャーナリスト兼高かおるさんの著書。
発売は昭和60年となっており、その25年前に世界一周旅行に番組としてではあるが出かけた。その世界一周旅行や、それ以外の取材の旅について振り返りながらインタビュー形式で話が進められていく。
この本は世界の歴史、世界の本に載らないような人々の生活の歴史を知る上で本当に良い本だった。
旅行のノウハウという意味では時代も違いすぎるし参考にはならないが、「古き良き時代」というものが本当にあったんだなと実感する。
当時存命だったダリへのインタビューや、まだダイアナ妃と出会ってもいないチャールズ皇太子の気さくな一面。そういった著名人との触れ合いも、当時だから許されたインタビューであると思う。
また、時代はこうも変わるものかと、今と比べて目からウロコな事実や、逆に考え方としては今と変わらない、ハッとさせられる部分も多々ある。
日本人にとって海外旅行が当たり前ではなかった時代、一流と呼ばれる人(言葉も堪能、お金もあるが品がある)たちだけが海外に行けていた時代と、そこから25年後の景気が良くなりお金だけがあるが品が悪い人たちが海外に出かけるようになって、日本人はマナーが悪いからホテルに宿泊禁止のところもあったとか。
これ、近年では中国に対して行われていること(それが原因で現代では人権問題に発展するが)である。一度経済が発展し、人々が外に出られるようになると、必ず通る道なのかもしれない。
逆に変わらないという点で言えば、当時から兼高さんは、「日本は島国だから自分たちの世界での見られ方を知らないため、自分たちの文化に自意識過剰気味になっているのではないか」と言っている。
これは今でも変わりがないことだと思う。日本万歳番組はなくならないし、今でも世界の需要を知らないまま日本製が売れていると勘違いしている人たちもかなり多い。
サブタイトルにある「旅ほど素敵な人生はない」と名付けられている通り、兼高さんは旅を愛し、世界の人々を愛し、自分の意見を持ってたくさんの文化に触れてきたんだということが分かる。
たくさんのエピソードが全て微笑ましく、軽快な会話形式だから読みやすく、誰にでも読んでみてほしい一冊だと思った。
残念なのはもう古本でもなかなか売っておらず、高額になっていること。図書館でも倉庫から出してもらった借りることがができた。
<まとめ>
・インタビュー形式で嫌味なく会話が続きとても読みやすい
・約50年前の世界がどうだったのか一般の人のレベルで分かりやすく書かれている
終わりなき旅の終わり さらば、遊牧夫婦
「遊牧夫婦」「中国でお尻を手術。 (遊牧夫婦、アジアを行く)」の完結編。
最後は中国からユーラシア大陸を横断して、最後はアフリカにまで行く。5年も旅するなんて羨ましい限り。でも夫婦だからこその色々大変さもあった。
途中で自分に合わない国などもあったり、あっという間に滞在をやめる国もあるけど、最後は陸路で横断している感じがよくわかって面白い。
二人は旅慣れしすぎていて、いわゆる一般的な旅行者が行く場所というのにはあまり行かない。だからその描写も少ない。
そしてやはり旅には終わりがある。帰りたいという気持ちになる時が来るんだな。
3部作の最後である本書だけ読んでも長旅の雰囲気はわかる、むしろ一番よくわかるかもしれないので、全部読む必要はないかも。
・ユーラシア大陸横断の雰囲気はわかる
・新婚旅行を世界一周にしようとしている夫婦には参考になるかも
・働きながら旅しているので予算感がよくわからない